1勝1敗で迎えたWカップドイツ大会。三戦目のピッチに立った日本代表の中にはあの男闘呼が居た。 そう、彼はキングと呼ばれ、王として10年前の日本に君臨しながらもそれから迎える日本フットボール界の黄金期を目の前に、代表の桧舞台から姿を消した− 三浦和良 背番号11 −その人であった。

予選で全く選考される気配が無かった彼が、何故Wカップに出場して居るのか。 それは抽選会場での出来事へと遡る。 王に最も憧れ、最も近付かんとしてきたもう一人の男、中山の一言「この大会が、日本にはあなたにとっての81年トヨタカップに値すべき大会になります。 そう、カズの為の2006年ドイツW杯に。」 この、カズと半年しか年齢が変わらずにして今だJリーガーの男の言葉に、ジーコの魂は共鳴したのである。

そして、その中山の言葉へと符合する様に、彼はシドニーFCのメンバーの一人として生まれ変わったトヨタカップへと出場し、リヴァプール戦での決勝ゴールを始めとする活躍によりチームを優勝へと導いたのだ。

その事は、予選の三カ国で彼がプレイした経験があるという事も相俟って、メディアでのカズ復活論が巻き起こるという結果をもたらした。 その後、代表合宿等の度にジーコ監督へとメディアは群がり、カズ復活をまくし立てる様に質問をぶつけて行った。 表立ってカズを尊重して行くという態度は見せないジーコ監督ではあったが、その冷静な受け答えの裏には一つの確信めいたものをうかがわせた。

KingにしてJorkerたる、カズのWカップ代表メンバー入りは、そんなジーコの、いや日本国民の確信と衝撃を持って発表されたのだった。不惑を目の前にして いや、97年を最後に惑う事無く突き進んできた男が、初めてのWカップでピッチに立つ。



第三戦目、敵は最強のカナリア軍団 ブラジル。鉄壁ジーダ、守備の要ルッシオ、中盤で無類の存在感を誇るエメルソンを始めとしたDF陣に、21世紀最高のプレイヤーロナウジーニョ、レアルのエースストライカロナウド、若き天才カカーらの攻撃が絶妙に絡んだブラジルは前ニ試合で相手を圧倒するゲームを繰り広げて見せた。

しかし日本もGK川口、CBには横浜の松田、中沢らを組ませ、それに進境著しい加地とセレソン相手に燃えるアレックスを配した4バックに加え、中村をトップ下に残して残りを中田、小野、福西のセントラルMFとする新黄金の中盤にした4−4−2で、世界と全く見劣りしない布陣を敷いた。

最強ブラジルを相手に燃えるイレブン。だが、ピッチに出てきたブラジルのある異変に中田は気付く。 そうだ、前試合であれほど敵を切り裂いていた弾丸フリーキッカーR.カルロスと職人芸のアタッカー カフーが、その姿を見せていない替わりにブラジルDFの新星ルイゾンがスターティングメンバ−となっているのだ。

3バック?一体どうしたのだ・・・ 混乱するジーコジャパンの中で、当のジーコだけはいつもの冷静さを失わず、こう考えていた。 「相手に気を取られすぎる事は、自分を見失う事になる・・・日本の全てを出しきれば、必ず勝てる。」

緊迫した雰囲気の日本ベンチを眺め不敵な笑みを浮かべるパレイラ監督。 ジーダに続いてRジュニオールとルッシオ、ルイゾンが続く。 「Rカルロスの替わりにルイゾン、ではカフーの替わりには一体誰が・・・?彼等のサイドアタックを捨ててまでして入れる価値のある選手とは一体誰なんだ・・・?」

次の刹那、見るもの全てに衝撃が走る。11人目、ワンテンポ遅れてゆっくりと姿を現した選手は40歳にしてブラジレイロン得点王 もう一人のKing of Jorker ロマーリオその人であった。 そしてイレブンが握手を交わす中で、絶頂期とまるで変わらない口ぶりで、彼はぬけぬけと言い放つ。「カズの大会?馬鹿な!俺の出る大会の全ては俺の為に有り、ボールもまた俺がゴールに入れるために有るのだ!!」

共に98フランスのピッチを逃し、母国もまた不遇の成績となった。あのピッチを求め、ある意味であの死に場所を求めてのプレイを続けてきた二人のストライカー。彼等の輝くフィールドは今ここにある。

日本サッカーの母であるドイツを舞台に、日本サッカーの偉大な先人であるブラジルを相手にした戦いの幕が、今切って落とされたのである。